深呼吸して玄関のドアを開け、朝の空気を吸い込んだ。首を左右に傾けると、ゴキゴキと花の17歳らしからぬごつい音がする。まるで戦場に赴く兵士だ。実際、今の自分はそんなもんだ。
「っはよー」
「おはよ」
家から少し歩くと生徒の姿が絶えない通学路に入る。特に待ち合わせてるわけじゃないけど、時間が合うとこの友人と登校している。ただでさえ背が高いくせに頭のてっぱんにお団子なんてしてるから余計背が高く見える。
ま、人のこと言えないんだけど。通りすぎた小さな時計屋のガラスのドアをちらりと見た。友人とそう変わらない身長の私は今日はポニーテールだ。
「なんだ。泣きはらした顔してんのかと思ったのに」
前に向き直ると、友人が顔を覗き込んでいるのに気づいた。残念そうな口調にわざとらしく不機嫌な顔を作った。
「平気そうで良かった」
そのまま皮肉ってくれればいいのにさらっとそんなことを言う。つんと鼻が痛くなる。
「夜中ずっと冷やしてたもん」
朝もと言ってタオルの後が残る頬を指した。友人が口を開こうとした時、自転車に乗る同じ制服の生徒が軽く手を上げて通り過ぎた。
「さっすが王子様」
「だね」
昨日私をふった彼は、今までと変わらない挨拶をする。褒め言葉にも陰口にも使われる彼の呼び名の1つを口にして、友人は冷めた目で生徒達の中を颯爽と行く彼を見ていた。
私は家から歩いて20分の公立高校に通う2年生。ハナと呼ばれているが本名は加山愛奈。
先日、付き合うこと確実、むしろ既に付き合ってるみたいだと言われつづけたソウタに告ってふられた。
周りと同じように考えてたわけじゃないけど、ぶっちゃけ何でって思った。毎日誰よりもソウタとしゃべって笑ってんのは私じゃないの?とかね。ま、自意識過剰だったんだけどさ。
ふられた翌日はさすがにあんまり話しかけて来なかったけど、2,3日経つとまたいつも通り。私が告ったこともふられてることも知らない周りは、その1日目を痴話喧嘩かーとか適当に言ってたけど。笑えないっつの。
ソウタとの間に壁ができるのは嫌だったけど、こうも前と変わらない態度だとなんだか腹が立ってくる。
何も知らない友達に、付き合っちゃえば?って言われるとますます頭が混乱する。ほんと、何もなかったみたいに接するんだもんなあ。