「いやぁほんとに臭い、この私に豚の餌を食えというのか。ここの人間は」
「おい!てめぇら師匠に豚の餌を出すんじゃねぇ!聞いてんのか!」
カビ臭く湿っぽい空間、そこには数十人ほどの男達が檻の中に詰め込まれている。グランヴ島グランヴィ国に唯一存在する刑務所だ。
「少し静かにしようかゼス。」
体中入れ墨だらけの長身の男は静かな口調でゼスという少年を制する。
ゼスは「はい!師匠!」と言うとその場にあぐらをかいた。
熱くやけに声のでかい弟子が静まるのを確認すると師匠であるエノクは口を開いた。
「ここでも『鍵』の情報は得られなかった。今から刑務所を出る。忘れ物は無いか確認しておくように」
「師匠!大事な物はオルヴィア(警察のような組織)から全部没収されました!」
「うむ、そうであったな。では彼らに私達の持ち物を返してもらおう。それから船を調達し…まぁとりあえずここから出ようか」
エノクはそう言うと扉の方へと歩き始めた。それを確認したゼスはすくっと立ち上がり檻の扉を開いた。
何事もなかったかのように檻から出る2人、常人では無いのは誰の目にも明らかだ。
つかつかと石畳の上を歩く2人を囚人達もまた何事もないように見つめている。
毎晩情報収集の際他の檻の囚人を訪ねていたため特に珍しい事ではなかったようだ。
「また話し相手になってくれよ!」
「俺も出してくれ!」
各々別れの言葉を口にする囚人達を横目に2人は通路の突き当たりで寝ているオルヴィアに一言声をかけた。
「オルヴィア諸君ご苦労であった。ただもう少しうまい飯を用意してやってくれないか。ここの兄弟達も喜んでくれるだろう。それではまた」
オルヴィアはその声に気づいたのかうっすらと目を開けた。
「…ん?…飯?あぁ分かった…用意しておくよ」
オルヴィアは目をこすりながら言うと2人が出て行くのを見届けた。
その後すぐに他のオルヴィアを呼んで大規模な追跡劇にまで発展したことは言うまでもない。