冬の朝のにおいはおもしろい。空気にもにおいがあるものなのだろうか。それとも今日が特別な日だからだろうか。 おろしたての黒のワンピース。首にはパールのネックレス。黒いバッグの中に小さな猫のブローチをそっとしのばせている。 目の前に広がるたんぼ。遠くにあるみかん畑。今日ばかりは生きもののすべてが寂しそうに見える。 死者を悼むために。私の大好きな人を見送るために。 寺田郁蔵、享年89歳。 今、私のおじいちゃんはどこを、漂っているんだろう。
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