ダイヤルを押した!
『ずっと抱きしめて〜?』
森山直太朗の『愛し君へ』がかすかに聴こえる。
某テレビ番組、僕らの音○が好きで録画してはヒマヒマに見ていたがこの曲には心打たれていた、最近ハマりぎみである。
営業でも歌わされる時にはコレをチョイスしては、姫様(客)の心をつかむのだ。
そんなことはどうでもよくて、携帯、携帯を見つけなければ…。
着信音のするほうに目星をつけて、衣装部屋へとやってきた。が…音が切れる。
ちっ、またかけますよ!
再び『ずっと〜?』が鳴りはじめる。
今度はあの部屋へと直行だ、行くとタンスのほうから音がこもれてきていた。
なんでこんなトコに?と悩みながらも引き出しを開けると、ブラックな携帯が緑色の点滅を発しながらバイブしていた。着信音は切れたがカツミの頭の中では、その続きが鳴っている。隠れた名曲だろう。
携帯の横には、百万円の札束が無造作に置いてあった。
(なるほど、コレだよ!)
何がなるほどなのかはわからないがニヤニヤしながら、カツミはその束と携帯をつかむとガラスのテーブルのほうへ戻った。
札束をわざと立たせ、携帯で写真を撮った。それから『未設定さん』にメールを送る。文面はこうだ、
ーカツミですー
連絡、遅くなりましたが温泉行きましょう!お金は気にしないで…コレなんだかわかる?
タンスから出てきました!
これで大丈夫。彼女からの反応が楽しみだ、っていうか何の返事もきてない…。なんでだろう。
メール送信記録の数に比べ、受信記録が極端に少ない。しかもここのところ頑張って、送っている『未設定さん』からはリターン0なのだ。
鼻の奥がつぅーんとしてくる、泣くな。これくらいで泣くような男じゃないだろう、カツミ!ここまでやってきたんだから、まだ負けてない…。
自分で自分を励ましつつ、涙目を両手で隠した。涙が引くまでまつ。
よろよろと立ち上がると、木製ブラインドの紐を引っ張って傾けた。メール送信の時とは大違いな勢いのなさだった。
僅か光が部屋を明るくする。
雨は上がりかけていて、小さな粒が風に吹かれるように舞落ちていく、バルコニーはまだ濡れていて乾いてはいない。
それを眺めながらカツミは思った。
(これからどうしよう?連絡待ちか?本当にくるだろうか?)
《ー続くー》