夏の海は嫌い。
照りつける太陽と開放的な風。
今もそこに彼がいて笑っていそうで。
打ち寄せる波のひきが埋められない私の心みたい。
だけど生まれて初めて…
差し出された手をにぎることが苦しくて…恥ずかしくて…嬉しいって知った。
部活に夏休みなんてほとんどなくて…
約束はなかなか叶わなかった。
ただ過ぎる夏にもどかしさを感じ…
廊下ですれ違う一瞬がその日1日の幸せだった。
でも神様は捨てたもんじゃなくて。
「明日ってあいてる?」
部活後の校庭の水道に彼の声。
「あっあいてる!!」
勢いよく答えた私に笑って「じゃぁ10時にバス亭」
と言って別れた。
行き先も決めずにただついてった。
ついた先は小さな水族館。
だけど彼が私に見せたかったのはその水族館の後ろの海のきれいな夕陽。
私は気が付いたら口にしてた。「好き」
彼は笑って言った…「俺も」
そう言って差し出された手をにぎり返したあの夏。
この手を離さなければ大丈夫だって思ってた。
二人でいる強さを少し知った夏。
夜風が冷たくなり、秋が近づいていた頃。
私達は初めての試練を味わうね。
だけど私達の答えに今なら笑って大丈夫だって言ってあげるけど。