レインコートの青年は廃車置き場に向かい、少女のいる車を覗いた。
後部座席に少女の姿がない。帰ってしまったのか。
青年がドアに手をかけると、突然目の前に「わっ」と声を上げて少女が現れた。青年は驚いて尻餅をついた。
少女が窓を開けてくすくす笑っている。青年はちょっと赤くなって立ち上がった。
「貴方の車? ごめんなさいね。占領しちゃって」
ゆうべは分からなかったが、少女の目は大きく、睫毛は長い。青年はゆっくり首を振った。
少女はまじまじと見つめる。青年は目を反らした。
「私はリリィ。君は誰?」
少女の目はらんらんとしている。青年は目を向けようとしない。
「…マーチ」
低い声だった。
「ねぇマーチ、暫くここに居てもいい?」
マーチは顔を上げた。普段の生活拠点はここではないし支障はない。
「構わないけど…」
「ほんと? 他に行く所がなくてどうしようかと思ってたの。ありがとう」
眩しくてまた目を反らした。
「やだーなんでまた反らすの」
とリリィはちょっと膨れてみせた。