『“奈央ちゃんマジック”?!なぁに?!それ?!』
こんな緊迫しているトキに、
そんな変な事を言う聖人が、
あたしはよく分からなかった。
『何でもねぇよっっ!!』
そう言って、笑っている聖人の笑顔に、
思わず胸がキュンとした――
『聖人。ちゃんとユカをおぶってあげてね!!落とさないでよっっ!!』
『おぅ。さっきから背中に、柔らけぇ感触がよ‥‥。』
『ばっ‥‥ばかじゃないのっっ!!
ユカは病人なのよ!!聖人ってば信じらんないっっ!!』
何言ってるのっっ。
こんなトキに。
保健室には、タツヤだっているのよ。
あたしは、さっきから、そのコトばっか考えてて、
緊張してるのにっっ!!
聖人ってば、
そう言う所が、何考えてるのか分からないのよっっ!!
‥‥って、心の中でしか言えないケド‥‥‥。
『奈央。前見てみ。』
クールな視線で聖人が言ったひとことに、
あたしは思わず息を呑んだ――
『タ‥タツヤと‥渋川。』
なんと――
保健室の前に辿り着いた、あたし達の前には、
ちょうど今、
まさに保健室から出て行こうとしているタツヤと渋川の姿があったんだ――
タツヤは鼻の上にガーゼを当て、
その上から絆創膏で数ヶ所留めていた。
渋川は、あたし達に気付くと、一瞬眉をひそめ、
銀縁メガネの中から覗く細い目を更に細めて、
じぃ〜〜っと数秒の間を置いてから、
今度は、ニッコリと微笑んだ。
『北岡。さっきは、よく事情も聞かずに、怒鳴って済まなかった。
秋田谷から事情を聞いた後、今、こうしてタツヤにも確認をした結果、今回の件については、タツヤが悪いと判断した。
タツヤには今、私から、厳重注意をしておいた。
それと、木下。
お前の言う事は本当だった。
済まなかったな。』