奈央と出会えたから。<218>

麻呂  2008-09-12投稿
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渋川は、言葉こそ丁寧に、慎重に選んで話していたケド、



銀縁メガネの奥の目からは、



相変わらず、“冷たさ”しか感じられなかった。



恐らく、“悪かった”なんて、これっぽっちも思っていないに違いない。



これも、将来“教頭”になる為だと思えば、簡単に演じられる演技よね。





タツヤは、ただ黙って渋川の直ぐ後ろに立っていた。





『渋川。出世するってのも、なかなか大変なもんだよな?!
ま、せいぜい頑張ってくれ。

未来の“教頭先生”サンよォ!!』



聖人の言葉に、さすがの渋川の作り笑顔も崩れた。



キッ―ー‐



そんな渋川を鋭い眼光で睨み付ける聖人。



『タツヤ、行くぞ。』



渋川が言った。



渋川とタツヤは、あたし達の横を通り過ぎて行こうとし、



あたし達は、渋川達と入れ替わる様に、保健室の中へ入ろうとした――



その時――



『北岡。おぶっている秋田谷は、どうかしたのかね?!』



渋川が聖人に言った。



『何でもねぇよ。ただの貧血だ。』



聖人は、そう答え、保健室の中に入ろうとしたけど、



言い足りない事があったのか、



また、渋川の方へ向き直った。





『あっ‥そうそう。
秋田谷の父さんは、PTA会長で、教育委員会の偉いヤツとも交流があるみたいだけどよォ――

だからって、秋田谷に媚びる様な真似だけはすんなよな!!
いい大人がよ!!』


聖人にそう言われた渋川は――



一瞬、聖人を睨み付けたが、



直ぐにタツヤと一緒に行ってしまった。




コンコン――



ユカをおぶっている聖人の代わりに、



あたしは保健室の扉をノックした――



保健室の扉を開くと――



保健室独特の消毒薬の匂いがした――





『保健室のセンセいる?!』



聖人が言った。



『はぁい。あらっ?!今日は、同じ渋川先生のクラスのコが多いわね?!』





保健室の篠原先生は、優しくて綺麗なヒトだ。



まだ20代後半だっていう話。



去年、結婚したばかりだけど、



それまでは、男子生徒の間でファンクラブが作られる程の人気ぶりだった。

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