「私の戦いの嗜好をご理解頂ける方はウラジミール皇帝陛下以外にはおられません」
うっとりした様にエカチェリナは頬を赤らめた。
そして、突然自分の身体を掻き抱いて絶叫した。
「いえ、それでいいの!あの方にしかわからないということは私と陛下がそれだけ深い絆で……ああっ…いけません!陛下!…私は…私は…!」
「卿!落ち着いて!」
周りの騎士になだめられ、彼女ははっと我に返った。
「わ、私としたことが……なんてはしたない…。陛下、淫らな妄想に耽っていた私をお許し下さい…」
ただ単に妄想癖のある女なのだろうか、或いは、あれがナショナリズムの集大成であり、国酔主義の究極形であるのか。
しばらく誰も口を利けず、なんとも言えない空気が流れた。
「失礼」
コホンと小さく咳払いをし、エカチェリナは何故かはだけた軍服の襟を正した。
「私どもが此処へ来た理由をまだお話していませんでした」
「アメリカ合衆国に協力する事にした、その真理…ですね。まさか先程貴女が世界の前で行った壮大なデモンストレーション。あれが本音。と言う訳ではないでしょう」
狩野が尋ねた。
エカチェリナは首を縦に振り、それを肯定した。
「確かに、我々は世界に帝国の正義を示す為だけに中国と敵対した訳ではありません」
利害で動くべし。
この理論を数百年貫いてきたロシアという国が、正義や誠を振りかざす為に同盟国を襲ったとは考えられなかった。
だが、
「ですが」
と、エカチェリナは続けた。
「地球の同胞の為…あの言の中に少なからず神聖ロシア帝国の本音と誠意があった事はご理解下さい」
滝川は、彼女らの目に偽りを見て取る事は出来なかった。
国に、これ程人間らしい感情が宿っていた事を知り、滝川は少しホッとした。
「我々の真の目的は…」
エカチェリナは口を開いた。その目がちらとハルとアキに向けられたのを滝川は見た。
なるほど。
滝川は、神聖ロシア帝国の真意をようやく理解した。
「【プロミネンス】ね」
ハルとアキがピクッと反応し、同時に顔を上げた。
「その通りです」
また、エカチェリナは続ける。
「以前、我が国の情報機関がある一冊のノートのコピーを入手しました」
あるノート。その名前はわかっている。
我々の戦いの切っ掛けである一冊のWW理論書。
「エシュトノートです」