『篠原先生。ユカが貧血で倒れちゃって‥‥。』
あたしがそう言うと、
篠原先生は、ユカをおぶっている聖人に気付いた。
『まぁ。それで、北岡君が、秋田谷さんを此処までおぶって来てくれたの?!
君、見掛けによらず優しいね?!』
『‥‥んなんじゃねぇよ。病人を放っておく訳にいかねぇだろ?!』
聖人は、ぶっきらぼうにそう言った。
『フフフ‥‥。そう。そうよね!!
じゃあ北岡君。
ユカちゃんをそこのベッドへ寝かせてくれる?!』
篠原先生に言われ、聖人は、おぶっていたユカを静かに下ろした。
『ユカ。あたしにつかまっていいよ。』
あたしが手を貸すと、
『大丈夫。ありがとう。』
ユカは、そう言って、ベッドの上に横になった。
『ありがとう。北岡君と木下さんは、もう戻っていいわよ。
後は先生に任せてね。』
篠原先生が、優しくそう言った。
胸の辺りまで長さのある、落ち着いたブラウンに染めたくせ毛風パーマのかかった髪を、
後ろでひとつに束ねている。
見た目は、品のある綺麗なお姉さん風なのに、
性格は、男っぽくてサバサバしている。
そんな、篠原先生があたしは大好きだった――
『先生。タツヤの怪我は、どんな感じですか?!』
聞かなくても、本当は、もう既に、怪我は大した事が無いと知っていたケド――
サチヨの話だけじゃ信憑性が薄いし。
さっき見た時は、ガーゼで隠れて見えなかったし。
『うん。タツヤ君の怪我も、出血の割には大した事無かったわよ。
顔中血だらけにしてたから、本人もびっくりしたんじゃない?!』
『ヘッ。あんなパンチで鼻を折られちゃ、たまったもんじゃないぜ。
こっちは手加減してやったのによ。』
篠原先生の優しい言葉にも、
聖人はその負けず嫌いな言葉で返してしまった。
よかった。
とりあえずは篠原先生の言葉に安心したあたし。
『聖人。ユカは少し保健室で休ませてあげよ。あたし達はもう行こうよ。』
『あぁ。そうだな。』