ひとつ

美月颯  2008-09-12投稿
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遊はいつも私の歩幅に合わせて歩いてくれてたね。
付き合ってた記憶は無いけどずっと一緒に居られるって、そう思ってた。

私はHIV母子感染者で…学校でも友達の居ない私はクラスの人気者の遊と幼なじみってだけでちょっと優越感に浸ってたんだよ。

遊、知ってた?

小さい頃からHIVでずっといじめられてきた。私は何もしてないのに。
でも大人になったら周りも理解してくれるかなって思ってたけど…やっぱり駄目だった。
私の左腕には沢山のリストカット、自傷痕がある。お母さんが、肌の移植を考えてたくらい。お母さんの心にも傷がいっぱいいっぱいあるのにね。

いつも笑顔を絶やさなかった遊が私の事で怒ってくれた。
「可奈の左腕、気安く触るな」
って。ふざけてた男子達は何を言われてるか解らなかったみたいだけど。
遊、知ってたんだね。腕の事も私の心理の事も。それからHIV感染の事で差別しなかったのは、お母さんと遊だけだったんだよ。

遊ならもっと良い高校に入れたのに「可奈と一緒が良い」って言ってくれたね。家も近くて小学生の時なんて家庭訪問まで一緒だったもんね。

遊は人を傷つける事をしなかったし言葉にもしなかった。

自分の事より私を誰よりも心配してくれた、そしていつも優しくそっと頬を撫でてくれた。その後も、遊と私の関係は何も変わらなかった。でも…

遊は私の全て。ずっと二人で居たかったよ。だって今までだってずっと一緒だったんだよ。

高校二年の夏、最期の時が来た

死んじゃやだ、一人にしないで

「可奈は一人じゃないよ、俺が居るから」

一つになれなくてごめんね
「何言ってんだよ」

可奈が…っ

「気にしてないよ」

可奈は一つになりたかった
「もうなるよ」

ーえ…

「可奈、この世に独りは無いんだからな」

…うん、遊。向こうで逢おうね、おやすみ…

遊はそっと目を閉じ眠った、永久に。



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