「別れたくないわ」彼女が言った。
「僕だって別れたくない」僕は言った。「でも別れなくちゃならないんだ」
僕らは浜辺に座って話していた。太陽はちょうど真上にあった。まだ6月だというのに、最高気温は30度を越えるらしい。
「何で別れなきゃならないの」彼女が聞いた。
「理由なんてないよ」僕はこたえた。「でもね、それでも別れなきゃいけない時っていうのがあるんだ。それが世の中なんだよ」
彼女は水平線の彼方を見つめていた。いったい何を考えているんだろう。波はとても穏やかだった。
「…なんで……」彼女がぼそっと言った。
なんで?僕にも、何故別れなくちゃならないのかは、わからなかった。でも別れなくてはならない気がした。そういう事だってあるのだ。
「家まで送るよ」すこし経ってから僕は言った。
彼女は頷いた。彼女の家までの数分間、僕らは話をしなかった。