「アメリカ合衆国のWW理論の権威、エシュト・アンダーソンの手記ですね。我々も土田光太郎准将…いえ、中将の命令でアメリカへ来たのですから」
あおかぜがここへ来た本意、それはエシュトノートの入手が目的だった。
結局、彼が戦死した為、入手の目的は不明。
「でも、エシュトノートは存在しなかったわ」
滝川は真実を述べた。エヴァンス大将から聞かされた時は目眩がしたものだったが。
ハルとアキも、エシュト博士の娘レベッカからそれを聞いている。
エシュトノートは【ミカエル】の中に組み込まれているのだ。
だが、二人はこれをまだ控えておくつもりだ。
「申し訳ありません。言い方が悪かったかもしれません。皆様がそれ程、エシュトノートについてご存知だったとは……」
ブラッフを仕掛けたつもりだったのか、エカチェリナは素直に謝った。
「ですが、私は嘘をついたりはしません。騎士の誇りにかけて」
「どういう事です?」
荒木に催促されたが、エカチェリナは周りを見てうるさそうに言った。
「ここでは……」
エカチェリナは場所を移す事を提案した。
彼女の顔からは真剣さが、滲んでいる。滝川はこれを承諾した。
あおかぜのブリーフィングルームの円卓には艦長の滝川と副官荒木、そしてWW隊隊長狩野が座り、エカチェリナも腰を下ろした。
エカチェリナは護衛の騎士を下がらせ、部屋には四人だけになった。
「では我々が把握している事をお話ししましょう」
エカチェリナは資料等を見ない。全て理解している様だ。
「正確には実物を持ってはいません」
「そうでしょうね」
「ですが、ノートが我々が思い描く“ノート”の概念とは違うとしたら?」
エカチェリナは窓の向こうで整備中のミカエルを見た。
ミカエルではコクピットでアキとハルが機器の調整をしながら談笑していた。
「概念?」
包帯を巻いた狩野が訳が聞き返した。
「ノートが手記、つまり紙を束ねたモノではなかったら?ノートの名を借りたプログラムの類だとすれば?実物等最初からあるはずがありませんわ」
滝川もこれにはさすがに驚きを隠せなかった。
故・土田中将からはそれが紙に手書きで書かれたものだと聞かされていたし、ノートという名前にも騙されていたのかもしれない。
確かに今の時代、プログラム化は当り前の事、少し考えればすぐわかる事だった。