昨日、隣に引越ししてきた、おばさんは、困り顔で玄関のドアに体を預けていた。
その前を俺は深夜のバイトでクタクタになった状態で通り抜けようとしていた。
―無視、無視、話掛けてくるなよ、くるなよ、、
俺はそんなオーラを放ちながら、自分部屋の鍵を開け始める。
おばさんの視線を横顔に感じる。鍵は開いた。ちょっとホッとする俺。
「水漏れしちゃって……」
やはり、おばさんは俺に話し掛けてきた。
「どこが？ というか、管理人へ言った方がいいんじゃないですか？」
「管理人？ ああ、あのハゲね。今日休みなのよ」
「そうですか……」俺は逃げるようにして部屋へ入ろうとする。
おばさんは、素早く俺のドアノブに手をかけた。
「悪い、ちょっと見てくれない？」戸惑う俺の視線とおばさんの視線がまともに合う。
淡白な顔立ち。小さい目だが化粧でかなり大きくみせている。
ふっくらとした小さな唇の魅力は自分でも気付いているに違いない。
年齢は３５，６といったところか……。
「しかし、俺がみても、分からないと思いますけど……」
俺は友人たちにかねがね優柔不断だと、言われている事を
思い出したが、時はすでに遅しで、その時はすでに、おばさんの家に
足を一歩踏み入れていた。
水漏れはトイレからだった。恐ろしい勢いで水が溢れ出している。
「し、下の人、迷惑してんじゃないですか？」
「下は空部屋よ」
おばさんは、後は俺に任せたとばかりに、余裕で煙草をふかしている。
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