「ソレリア・ユード。母さんの名前だよ。」
ゆっくりとシーラが振り向く。
「今の唄、前にオーウェンでも歌ってたろ。…なんて唄なんだ?」
ランスォールが聞くとシーラはまた墓の方を向いて言った。
「リネア・トリスタ。古い言葉で空に捧ぐ、って意味。昔母に教えてもらったわ。歌詞は覚えてないけどよく子守唄として、ね。」
リネア・トリスタ。
その言葉に込められたもう一つの意味は『時を刻みし者』。
「リネア・トリスタ…か。」ランスォールは母の墓に歩み寄ると墓石に手を置いて言った。
「シーラの歌うこの唄が花束の代わり、かな。
来るのが遅くなってごめん。母さん。」
墓の下に眠るその人がまるで笑ったかのように優しい風が吹いた。
「はは…笑ってら。」
今度は冷たい風が吹き風車を回した。
「風が冷たいな。そろそろ戻るか。」
「うん。」
二人は並んで小高い丘を下った。
彼が何も知らず、このまま穏やかな旅がずっと続けばいいのに。
過去を真に知るときが来たら、彼はきっと私を恨む。それは仕方のないことだし私はあの日の罰を受けなくてはならない。
けど、そのことで彼の心を傷つけてしまうのなら、いっそ知らなくていい。
そんな思いを胸の奥に閉じ込めてシーラは笑った。
空は、満天の星空だ。