「おーい。夕食まだか?」
と、兄の声が聞こえた。ちょうど、受話器を下ろしたところだった。
「まだ5時だよ。それより、この電話すごいよ!」
「おお、届いたのか。オレにも使わせろよ。」
「だめ!これを買った目的は、今終わったんだ。」
「そうか、自分は元気だったか?」
「まあ。だけどこれ以上この電話は使用禁止!」
「分かってるけど、もったいないな、5000万も出したのに。」
「これ以上、過去に触れてはいけない。」
オレンジ色が、窓から染み込んでくる。
「あの公園へ行こう。」
無意識のうちに、兄にこう言っていた。公園に行かなくては。
「何でだ?いい大人が2人で公園に行って、楽しいと思うか?」
「散歩だよ。たまには息抜きってことでさ。」
これには、大切な意味があった。公園に行く必要がある。
20分程歩いたところで、小さな公園に着いた。
兄は、大きな山の頂上に辿り着いたというような、爽やかな顔をしている。
歩いて来る途中、兄に本当のことを話したからかもしれない。
この公園の木の下に『過去からの贈り物』が埋まっている、と。
大きな桜の木の前に立った。もう散りかけている。
桜のピンクも、夕陽のオレンジに染まっている。
地面に落ちた花びらをかき分け、2人で土を掘り始める。
「小さい頃は、よくここに来たよなあ。親父と。」
と、兄が沈みそうな夕陽を見ながら言った。
「夕陽のオレンジだけは変わってない。」
「確かに。きれいなオレンジのままだね。」
30センチ程掘ったところで、小さな缶が出てきた。
錆びていて、開けるのに5分程かかってしまった。
兄と顔を見合わせ、同時に缶の中を覗き込む。
「これだけ?」
兄が残念そうに言った。中には、小さく折り畳まれた3枚の紙が、寂しそうに、ポツンと入れてあった。
数分後、兄は、目から涙を流した。自分も思わず涙を流した。
こぼれた涙が、乾いた紙を濡らしていく。
ー続くー