『奈央ちゃん。辛いのは奈央ちゃんだけじゃない。
みんな、何かしら人に言えない悩みなんかを持って生きているんだよ。
勿論、あたしも。』
『ミズホさん‥‥も?!』
『そうよ。』
ニコッ――
ミズホさんの、その笑顔に――
心が救われる思いがした――
『あたし、中1のトキ、親に反抗ばっかしててさ。
毎晩のように、仲間とトモダチの家に集まって、
時には家に帰らないコトもあったの。』
『はい‥‥。』
へぇ‥‥そうなんだ――
『うちの両親て、いわゆる仮面夫婦ってヤツ?!
表面上は、仲良くやっている様に見えるケド、
実際のところは酷かった。
父は勤務先の会社の若いコと噂になるし、
その“はらいせ”だと言って、
母は母で、パート先の上司と関係を持っていたの。』
あたしはミズホさんの話を真剣に聞いた。
聞いている振りをして、相槌を打っている訳では無くて、
本当に、真剣に耳を傾けていた。
『ある日、何時も一緒にいた仲間のうちの一人が、万引きで捕まったんだケド、
そのコが、その店の店長に言ったの。
“山下さんに、やれと言われました。”ってね。
そう‥‥あたしは、仲間に裏切られたってコト。』
『酷い‥‥。』
思わず呟いたあたし。
『店に呼び出されたあたしの母親は言ったわ。
“あんたは何で親を困らせる様なコトばかりするの!!
あんたなんて産まなければよかった。”
って――』
こんなに辛いコトを思い出しながら語っているのに、
ミズホさんは、あたしに向かって淡々と話し続けたんだ。