「抵抗しなければ攻撃はしない。カロウド様がお前を探している。」
「……。」
名指しされたシーラは黙って男を睨み付けたまま動かない。
「シーラ、行くことない。」ランスォールの言葉にシーラはそっと目を閉じた。
やがて目を開けるとこう言った。
「彼らには、手を出さないのよね?」
「もちろんだ。ま、彼らが我々に襲いかかって来なければ、だが。」
安心したように一息つくとシーラの足は一歩踏み出した。
「シーラ…?」
ラウフが呟くがシーラは聞こえないフリをしてなお進む。
シーラの細い腕をランスォールが掴んだ。
「どこ行くんだよ、シーラ。お前のいるべき場所はこっちだろ?」
「………い。」
シーラが小さく何かを言ったがランスォールには聞こえない。
「?」
シーラが顔だけで振り向いた。
「ごめんなさい。」
シーラの頬を涙が伝う。
掴んでいた手が緩んだ。
シーラがまた歩き出す。
…今度は彼女を止められなかった。
去り行く彼女の背中を、周りの黒スーツだちを押し退けてまで追うことができなかった。
そのままシーラは黒スーツ集団の中に消えた。
黒スーツの男たちは徐々に去り、そしてその場はまたいつもの騒がしい機械都市になった。
半分開かれたランスォールの手の中に驚きと喪失感、無力感だけをぽっかりと残して。