一緒に誘ってみよう。紅はあやめを茶屋に置き後を追った。
吉原は遊女が足抜け出来ないよう入り組んで造られている。知らない人間は迷ってしまう。特にこの先は危険だ。知らない人間がいったら…。
健吾の背中が見えた。
「ねぇ。ちょっと」
突然紅の姿を見て健吾は少し驚きの顔をし、紅だと判ると笑った。
「よかった。迷ってしまって。だんだんと感じも変わってきてどうしようかと」
確かにその先はきらびやかな吉原は陰もなくあばら家か長屋風の建物がひしめいていた。
「あの橋を越えた所からは柄の悪い連中が多いから気をつけてね。向こうは吉原の影だから」
健吾の手をひき紅はその場を離れた。
「影って?」
健吾が紅に聞く。
「あそこも遊郭。病気に掛かったり、店の言うこと聞かなかったり歳で客の取れなくなった遊女を安く買っては朝から晩まで客を取らせ死ぬまで働かせる夜鷹小屋よ」
ふーんと感心があるのか無いのか解らない返事をする。
「ねぇ、君。吉原には詳しいよね」
「まぁ、ね」
君と呼ばれて紅は少しドキドキした。そんな風に呼ばれたのは初めてだ。
「頼みがある」
健吾は両手を合わせ紅の前に立つ。
「人を探しているのだけど中々見つからなくて。手伝ってくれないか?」
やっぱり誰かを探してたのか、と納得した。
「誰を探しているのか知らないけどやめたほうがいいわ。貴方も相手も傷つくから」
紅の言葉も聞かず
「頼むよ。一目でいいんだ。見るだけで。元気なのか、生きているのか」
と健吾は懇願する。
諦めそうにないので取りあえず茶屋に向かう。
「紅ちゃん。遅いから心配したよ」
茶屋の席からあやめはそう言い紅の後ろから入って来た健吾を見てオヤッという顔をした。
「さっき見かけてね。一緒にと思って。危なく橋を渡る所だったのよ」
橋と聞いてあやめは眉を潜めた。
「確かにこんな身なりの坊ちゃんがいったら身ぐるみ剥がされ病気の二つも貰ってくるね」
席につき、一息ついた所で健吾は口を開いた。
私の家は代々大名をしていたのだけど今は貿易を手広くやっている商社でさ。彼女は「つう」というのだけど。つうは女中の娘でね。訳あってうちに住み込みで働いていて私達は自然と遊ぶようになった。
あれは四年前、私は16、つうは二十歳のとき…