そこで健吾の口が戸惑った。
はぁんと顔をしてあやめが口を挟む。
「男と女になったんだね?」
あやめの言葉に顔を赤らめ健吾は続けた。
その頃はつうも女中で僕の部屋付きにしてもらって…。僕はつうと結婚しても良いと思ってた。なのに…私の両親に二人の事が知られてしまって。母親とつうはすぐに追い出されて行方が判らなくなって。
探しているうち吉原にいったと聞いてね。「紅華楼」のご主人はうちの爺さんと友達で頼って置いてもらってるんだ。
「探して、見つけてどうしようってのさ。あんたの両親は女中でも反対したんだろ?女郎なんてやってる女、連れてったってどうなるのさ。このまま会わずに帰ったほうがその人の為だよ」
あやめが諭す。
「判ってる。会ったってどうしょうも無いことは。ただ吉原でいろんな男につうが抱かれていると思うとどうしても…。だからせめて見受けして吉原からだしてやりたいと。後はつうが幸せになってくれればそれで」
「ここにいる方がいい時もある。ここにいれば花魁(おいらん)とちやほやしてくれるけど吉原の外に出たら女郎と蔑まれる。出たって帰って来る女も多いんだよ」
あやめの話しを聞いて健吾も
「会わないほうがお互いの為…か…。そうかも知れないね。明日家に帰るよ…」
と力無く答えた。
「それなら今晩は母屋で食事しましょう。お別れ会ね」
元気づけようと紅は明るく話した。
「紅華楼」につくと奥から嫌な女の声が聞こえる。紅の父の後妻、鶴だ。商才のない父に代わり吉原の外に出した小物屋をもり立てて女将として働いているらしい。紅の事を疎ましく思っており虐めることはあっても可愛がられた事がなく、父も若い妻に遠慮してか吉原には来ないのであくまで噂で聞く範囲だが。
「この声…?」
健吾の顔色が変わったのに気付かず紅は答えた。
「父の新しい奥さんよ」
その時帳場から鶴がでてきた。
「じゃあ、また来ます。義母さん」
「つう!」
その声に鶴は顔を上げ声の主を見る。
「坊ちゃん…」
紅とあやめも驚いた。鶴の事だったとは。
「つう。会いたかった。探したんだよ。吉原にいると聞いて」
懐かしむ様に健吾は鶴を見つめる。