マーチはリリィの行動範囲をほぼ把握していたが、リリィは彼が昼間どこに向かっているのか知らなかった。ココに聞いてもわからなかった。というか、彼女は知らないふりをしたのだ。
ある朝、リリィはマーチの後を追った。気付かれないまま広場にやって来た。浮浪者の目を気にしながらリリィはマーチについて行く。マーチは歩くのが早かった。
どこに行くのかしら。マーチがどんどん闇に近づいていくので心配になってきた。ふと目をやると、浮浪者が煙草に火を付けようとしている。
「だめよ。体を悪くしちゃうわ」
リリィは咄嗟に注意した。浮浪者が睨み、彼女は少し怯んだが、黙って煙草をしまった。彼女が立ち去ろうとすると浮浪者は何故かにかっと笑って手を振った。
気付くとマーチはずっと先を歩いていて、さらに暗い闇に消えた。リリィが慌てて追った。気付かれないようにそっと蓋を閉めると、マーチは既に階段を下っていた。続いて階段を下る。足元が見えない。やっとのことで下り終わるとドアのから僅かに漏れる光が目に入った。
リリィはドアの向こうからの声に聞き耳を立てた。