ドアの向こうから聴こえる。
すごい。
このままいけば。
ぜんぶ。
ははは。
ぐちゃぐちゃだ。
何が何やらわからなかった。
めちゃめちゃにしちゃって。
しぬしぬ。
ひひっ。
きもちわりー。
訳も解らず聞いていると突然ドアが開いてリリィの頭にぶち当たった。あたたた、と頭を押さえて見下ろす影を見上げる。
マーチだった。
「…何してるの?」
リリィは少し鳥肌が立った。付けたことを後悔した。「こっちの台詞だ」
マーチの様子はいつもとは違ってかなり冷やかであった。レインコートの作る影がより一層冷たくした。笑ってもなんともならない。
「帰んな」
冷淡な口調でドアは閉められた。初めてマーチに愛想のない対応をされ一人残されたリリィは暫くコンクリートに座りこんだ。
その日はピアノを弾く気になれなかった。
怒られた。父親が自分を必死になって探しているというのに、自分はというと浮浪者の男の心配をしている。そればかりが胸に詰まって苦しくて仕方ないのだ。
ココはそんなリリィを心配して聴いてみるがリリィは首を振るばかりだった。
それから何日もの間、彼女がマーチに会うことは無かった。