英国諜報機関員達は素早く逃げ出し―\r
スプリンクラーの止まった部屋の中には、俺とフィギュアマスターだけが残された。
フィギュアマスターはソファーに縛り付けられたまんまの俺に近付き、ロープをほどきにかかった。
かかったのは良いが、彼はもう一つのモノも同時にかけた―\r
何かのBGMだ。
↓以下、俺がうろ覚えに聞いた曲の歌詞の大体の内容―\r
♪闘い疲れた 男の背中
漂う哀愁 何処かもの悲しい
暮れる夕日 灯のともる街
家路に付く人波 ただ見送るだけ
ああ 小さな仕合わせ
フィギュアマスター♪
ああ、これエンティングテーマですかそうですか。
♪ひなびた正義 移り逝く時
掲げた旗も 何処か力ない
理想無き世界 さ迷う群像
悩める者ある限り 闘い続ける
ああ 孤高貫く
フィギュアマスター
フィギュアマスター
フィギュア マスター♪
ああ、二番もあるんですかそうですか
最後は繰り返すんですねそうですか―\r
MDプレーヤーが止まり、解放された俺は、暗いまんまの部屋の中で、よろめきながらもようやく立ち上がった。
『ありがとうフィギュアマスター』
今だ平衡感が取り戻せないまんまに、俺は救い主(?)に礼を言った。
だが、彼はしょげかえり、俺から顔を背けながら、
『俺は―フィギュアマスターじゃない』
小さな呟きには、嗚咽が混じっていた。
『俺は―裏切り者のユダだ』
『違う』
俺は否定して、ヤツの両手を取った。
『お前は俺を救ってくれた。あの恐ろしい特務の連中と闘ったじゃないか』
そして俺は、床に仰向けになっていた《ユカリちゃん》を持ち上げ、ヤツに渡した。
『だからこそ、《ユカリちゃん》がお前に力を与えたんだ―そうだ、これをお前にやるよ』
『お、俺に、くれるのか?』
するとヤツは、《ユカリちゃん》を手に、フィギュアだらけの自室に戻り―\r
一分と断たずに再び姿を現した。
その両手には、あのカップラーメンと封筒が握られていた。
『これを持って逃げろ―50万入ってる』