わたしはその声にわたしとして応えた。
「はぁーい。いますぐ行くー。」
うん、この振る舞い方でいいんだ。
あたしは、ほんのちょっぴりだけわたしに近付いた気がして嬉しくなった。
今度から、一人称はあたしをやめてわたしにしよう。そうすればきっと、よりわたしに近付けるから。
わたしは重く膨らんだ鞄を掴んで、急いで下に降りた。
「忘れ物はないわね?」
「うん、ないよ。さっき確かめた」
「そう、ならよかったわ」
お母さんはわたしの態度が違っていることに気付いたみたいだったが、あえてそのことを言わなかったみたいだ。わたしはお母さんのちょっとした気遣いに感謝した。
「お母さん、先に乗って。わたし、後でいくから」
わたしがそう言うとお母さんは少し首を傾げながらえぇ、わかったわ、はやく来なさいよと言いながら外に出た。
わたしはそのすぐ後に靴を履いて、くるりと振り向いた。
ここは、あたし達の日常が詰まった家なんだ。
例えその詰まったものがあたしの嫌いなものだとしても、お世話になったんだからお礼くらいはしないとね。
「今までありがとう…我が家。そしてさようなら…元気でね」
わたしはそう言い残して、家を出た。