「助かったよ。ありがとう。」
「気にするなって。お互い様だろ、太田 勇!」
がっはっはっは、と男は誇らしげに笑った。
それをみた勇も、ふ、と笑っていた。が、その笑いも、一気に焦りと化した。
この男は今初めて会ったのだ。
なのに、俺の名を知っていたのだ。こいつは誰だ…!?
男も、それに気付いたようだ。
「おっと、すまない。俺の事は知らないよな。俺の名は、武田亮真。お前の名を知っていたのは、お前が恩人だからだよ。」
「恩人…」
勇は、恩人になる事なんかした覚えはなかったけど…と、首を傾げた。
「お前、昔、女を助けなかったか?女子中学生位の。」
「あ。ああ…」
思い出した。確か去年、俺は学校の帰りに、ゲーセンをうろついていた。その日はツイていなかった。散々ゲームに負け、苛々していた。その時だった。
「おい、どうしてくれるんだよぉ、ああ?」
いかにも不良な感じの男が、中学位の女の人に、突っ掛かっていた。
「すいません…すいません…」
女の人は、ただただ怯えながら、謝るだけだった。
「テメー肩がぶつかって、脱臼しちまったよ…どうしてくれんだ?あぁ?その身体で払うか?くっくっく…」
不良のような男が、いやらしくなめ回すように、その身体を見つめる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
女の人は、泣き出しそうな勢いだ。見てて腹が立ってきた。よし、こいつに苛々をぶつけるかとニヤリ、笑いながら、男の肩を叩いた。
「ああ?」
男が振り向いたその時、メキメキメキ、と音をたてて、男はぶっ飛んだ。
「見ててウザイんだよ。屑が」
苛々を男にぶちまけ、晴らしたのだった。こんなに気持ちいい事はなかった。
その時だった。
「ありがとうございました!」
と、目を輝かせたさっきの女の人がいた。
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
勇は、あぁ、よくドラマである展開だな、など考えながら、自分の名を教え、そのまま立ち去ったのだった。
「その女、俺の妹なんだ。で、恩返しがしたい、て言ってからな、お前をそのゲーセンで探しまくってた、って訳でな。いざ見付けたのはいいが、妹が恥ずかしがってな…今までに至る訳だ。はっはっは。」
「そうなんだ…」
勇はただただ、驚くばかりであった。