昨日もマーチはリリィの前に顔を出さなかった。
これ以上彼女に会うつもりはなかった。付けられたことを怒っているわけではない。
リリィがこの街に居ることが知られてしまったようだ。以前酒場の客としてやって来た人間が報酬目当てに情報を流したらしい。マーチがリリィの立場をすっかり忘れていた頃のことだ。迂濶だった。
そのことが市長に知られれば、リリィが家に連れ戻されるのは勿論、計画にも支障が出るし、みんなただでは済まされない。しかしながら、リリィがこんなに長居するとは思わなかった。
そうならないために一刻も早くリリィには大人しくここを離れてもらわければならない。情が完全に写ってしまわないように、会うのはもうよそう。
あとはココがなんとかしてくれる。
マーチはそう考えていたが、ココや街の人は彼以上に情が写ってしまっていたので巧く切り出せなかった。
リリィはとっくにわかっていた。ただマーチが気がかりで仕方なかっただけ。怒っているのだとばかり思っていた。
店はまた賑やかになった。ヒオやジンザ、いつもの客が座っていた。近頃この時間までに帰ることが多かったリリィは久し振りにピアノを弾いた。