明日から夏休み。でもあまりうれしくない。李遼と会いづらい。朝から、塾の夏期講習。終わるのは夕方。いつもなら学校で李遼の顔が見れるのに。もちろんキヨを迎えにいけば李遼に会える。でも、もっともっと李遼といたい。24時間李遼といたい。どうしたらいい?こんな気持ち、初めてだよ。泣きたくなる。不安になる。李遼がわたしを忘れてしまいそうで怖くなる。ねえ、李遼、あなたもそんなふうに思う事、ある?こんなに誰かを好きになった事、ないよ。数ヵ月前の自分じゃ考えられかったよ。
公園のベンチでわたしは、李遼に少し遠回りに自分の想いを伝えてた。塾なんかやだとか、キヨを送るのも自分がやればいいんじゃないかとか、なんかワガママばかり。自分勝手な言い分ばかりいいつのって。李遼は、静かに聞いていた。
「オレ、ハルの家、知っ
てるんだ。」
「え?」
「毎朝、新聞配ってるか
ら。」
「本当に?」
「うん。」
「何で、早く言ってくれ
なかったの?そうしたら
・・・」
「そうしたら?」
李遼が首を傾げる。
「もっと早起きした。」
満面の笑顔。
「無理して起きるなよ。」
「無理してでも起きる。」
気持ちが、華やいだ。
李遼が、わたしの手をギュッと握りしめた。
「なんかさ。」
「何?」
「わからない。」
「何が?」
「泣きたくなる。」
「どうして?」
「だから、それがわかん
ないんだって。」
「変なの。」
「変だよな。」
李遼は、いきなりキヨのいる方へ走り出した。
キヨは、突然の鬼ごっこはしゃいでいる。
汗だくになって走り回り、息を切らして戻ってきた李遼は、わたしの前に立ち、
「海、行こう、ハル。オ
レ、海行ったことないん
だ。」
「やだよ、海苦手だもん
。砂かむし、べたつくし
。」
「オレ、ハルと行きたい
んだ。」
「海越えてきたくせに。」
「飛び越えてきちゃった
からさ。夏休み、一緒に
海行こう。」
李遼が、そんなに行きたいなら、一度くらい行こうかな。
「いいよ。行こう。」
李遼は、また走っていく。そしてわたしは明日から早起きをする。李遼に会うために。