「とにかく健吾はいないのだから帰ってちょうだい。もうじき店を開ける時間だから」
連二郎は笑った。
「ところがそうもいかなくてね」
懐から沢山の紙の束をだす。
「お宅の逃げた旦那の借用書だ。全部払ってくれれば帰るよ」
紅は借用書を見る。
「こんなに…? だけと私には払う義務は無いわ。さっさと健吾を探して好きにすればいい。さあ、早く出ていって」
「そうもいかなくてね」
連二郎は一枚の紙をだす。
「この、建物、土地の抵当権だ。あんたの旦那の署名いり。つまり、借金の形にここは今日から山柴組のもの。そしてこれがあんたを売る約束で借りた証書。つまり、今日から紅華楼は俺の物でお前は女郎として働くんだ」
紅の顔は青ざめその場に座り込む。
やられた。あの二人に。まんまとやられてしまった。
妙がそばに駆け寄って来たのがぼんやりわかった。あの時と似てる。健吾に離れで襲われた後の時に…。
「さて、これだけの美人だ。客を付ける前に俺が遊ばしてもらう」
連二郎の手が紅に再び伸びる。紅は何の抵抗もせず立ち上がる。
妙が紅の前に立つ。
「なんだ?お前に用は無い。このままここで雇って欲しかったら俺にはさからうな」
睨んだ連二郎の眼は鋭かったが妙は怯まなかった。
「私に、紅お嬢さんの借金を私に肩代わりさせてください。私がここで働いて返します」
連二郎は鼻で笑う。
「お前の器量であんな大金払えるか。無理だよ」
連二郎は紅の手を引き二階へ続く階段を上る。
「なんだ?女郎が、邪魔しようってのか?」
見るとあやめが階段の中央に立つ。
「親分、あたしはここで一番遊女。ちょうど今年年期開けでね。その娘の借金、私に追い借金として背負わせておくれ。悪い話しじゃないだろう?私に抜けられた方が店的に痛手になると思うよ」
連二郎はあやめと紅を見比べた。
「店の女将を助けるために遊女が追い借金?そんな話し吉原に長くいるが聞いたことないぜ。噂通りたいした店だぜ」
連二郎は大声で笑った。
「気に入った。お前、名は?」
「あやめ。なら紅の手を離してくださいよ」
「あやめ、気に入ったからお前は俺の女にする。今日からお前がこの店の女将だ」
そう言い、紅の手を引き二階の部屋に入る。
後を追うあやめを連二郎の部下が足止めする。