「お母さん、どしたの?大丈夫?」
「あんたは向こうにいってなさい」
母はタンスの隅で顔を押さえて泣いていた。
この時まゆは5才だった。でもまゆは母が泣いている理由を知っていた。金のおんぶ紐で父に殴られて泣いている事を。
母は看護婦で父は喧嘩をしては仕事を辞めての繰り返しだった。
ある日母は足や顔がパンパンに腫れあがって苦しんでいた。この時母は33才だった。
母は生活の為、お腹の中に弟がいたけれど看護婦の仕事をしていた。そして風邪をこじらせて、この日から大病を背負う事になった。
それから母は入院生活の繰り返しだった。
母と父はいつもお金の事で喧嘩ばかりしていた。そんな両親を見るのがまゆはすごい嫌だった。
「喧嘩ばかりせんで。もう離婚して。お母さんが辛い思いするの見たくない。」ある日まゆは母に訴えた。
でも母は「あんたらーがいるから離婚できんのんよ。あんたさえいなかったら良かった。」
その言葉を聞いて、まゆは悲しかった。私さえいなければ母は幸せになれるんだとまゆは思った。そして、まゆは自分の部屋でカミソリを手に手首を傷つけた。痛くなかった。傷付ける事で傷ひとつひとつで母が幸せになるようなきがして…。この時まゆは14才だった。でも、母の言葉がまゆは心の中に曇りとして残り、その日から両親が大嫌いになった。
家にいたくなくて、どこかに家出したくて仕方ない毎日だった。
そんな毎日にまゆに心の逃げ場が現れた。
隣のお姉さんが手話で素敵な笑顔でまゆに話かけていた。まゆは手話が分からず首をかしげた。そしてノートを走って取りに行き、文字を書いた。その日からまゆはお姉さんと話をするのが楽しくて仕方なかった。両親の嫌な事もお姉さんと手話とかノートで話をする事で癒されていた。
お姉さんにはまゆと同じ位の娘さんがいた。でも離婚して逢えない事を知った。だから、お姉さんは自分の子供のようにまゆを可愛がってくれた。それからまゆは毎日のように、家出をした。隣のお姉さんの所に。
でもその幸せも長く続かなかった。ある日お姉さんはどこかに引越してしまったのだ。
また、まゆの逃げ場のない毎日が始まった。