<疑問> 休み時間がそろそろ終わる。いつもより少しお洒落をした母親達が教室に入って来る。 皆、恥ずかしいけど嬉しい…そんな笑顔。 「まだかなぁ」 授業中ちらちらとドアを見るが、母の姿は現れなかった。 「それでは外に出て種植えをしまーす。」 タイムリミットが来てしまった。 「ママが来て無いのはボクだけじゃないし!」 スコップを握り自分に言い聞かせる…。 ほんの少しだけ涙が出た。 すぐに袖で拭いたので誰にも見られなかった。 ホームルームが終わると走って帰った。 嘘をついた事に文句の一つも言いたい。 「ごめーん!急に仕事が入っちゃったのよぉ」 とか言って、お詫びにアイスとお菓子を買ってくれるだろう。 想像したらちょっと嬉しくなって来た。 玄関のブザーを押した。返事が無い。鍵も掛かっている。
いつもの様に、ランドセルに付いた自分の鍵で開け中に入る。
「ただいまー。ママー!」「ママー?」
家にも居なかった。
頭に「?」が浮かぶものの、友達との約束を思い出し自転車で公園に向かった。
「もうすぐ5時だから帰ろー」
門限を守らなければ遊びに出られなくなる。必死にペダルを漕ぎ、息を切らして帰って来た。
家の中が暗い。誰も居なかった。
「あれ?まだ帰って無い…」
さすがに母の携帯に電話を掛けた。
「トゥルルルル」 しばらく呼び出してから「只今電話に出る事が出来ません」のアナウンスが聞こえた。
短縮1に入っている電話に掛けた。父親へ。「あ、パパ?ママが居ないんだけどどうしよう…電話も出ないの。」
不安気な声で話す。
「そうか…パパからも電話してみるから家の鍵をちゃんと掛けて待ってなさい。」
すぐに電話を掛けて見る。呼び出すだけで妻の声を聞く事は出来なかった。
もう一度家に電話した。
航太郎が出る。
「パパだよ。ママ帰って来た?」「ううん。まだ」
何故だか言い知れぬ胸騒ぎを覚え、仕事を切り上げ足早に自宅を目指した。