「どうにかならないかしらね…」
巡洋艦あおかぜを外から眺めながら滝川はため息を洩らした。
「確かに」
狩野も同調する。
かつての親友、二ノ宮吟次に負わされた右腕と左足の骨折はまだ治りそうにない。
松葉づえでしのいでいる。
問題というのは、今、ワシントンに展開している軍の駐留の事だ。
アメリカ軍は現在、臨時の国際連合が置かれているホワイトハウス防衛の為に集結しているが、軍事施設を持たないワシントンに大規模な部隊を収納できるスペースは無く、航空戦艦は、規制を敷いて街中に無理矢理に作り出した区域で待機中なのだ。
外から丸見え。
これが滝川の抱いた第一印象だった。
空は“串刺し”エカチェリナ・テファロフ卿が率いるロシア帝国近衛騎士団の巨艦アレクサンドルが目を光らせ、絶対制空権を形成している。空から近づく敵はあっという間に火だるまと化すだろう。
だが、地はどうだ。
街中に簡易なフェンスを設けて囲んだだけの臨時キャンプ。
ワシントンの高層ビルが弊害になって、敵の接近には脆く、一度接近されたら誤爆しかねない上空のアレクサンドルからの対地支援は期待できない。
高速の急襲部隊の攻撃を受けたらどうにもならない。
しかも、あおかぜは最もフェンスに近い場所に位置する。
もし、コトが起これば真っ先に攻撃を受けるのは、あおかぜである。
「最悪の物件だわ」
「エヴァンス大将はこの状況を把握しているのですか?」
これに気付いている者は沢山いるだろう。
【大提督(アドミラル)】故・土田光太郎中将と並び称され、
【大将軍(フォースター・ジェネラル)】と謳われるアルベルト・エヴァンス大将。彼もまた、この事態を憂慮しているはず。
だが、規模が規模だけに、そして状況が状況だけに、仕方ない。
「せめて、警戒を厳しくしましょう」
「そうですね、よく言って聞かせます」
そう言って、狩野は松葉づえをつきながらあおかぜに向かって歩いて行った。
滝川は後を追い掛けて、彼の背中にそっと手を添えた。逆に歩きづらいかもしれないが。
「ありがとうございます」
ニッコリと笑って狩野は頭を下げた。
「冷えるわね」
十一月中旬の北風が、制服の合間を縫って肌を刺す。
「そうですか?」
狩野は歩きに専念しながら言った。
「私は温かい」
滝川も狩野も、俄かに顔を染めた。