ひらひらと、降り始めた雪を見上げながら。
その先の灰色の雲を睨みながら。
バグは白い息を吐いた。
寒さのせいで、彼の耳が真っ赤に染まっても、手袋の下で指先が凍えるように冷たくても、彼はそうしていた。
頭の奥までキィン、と痺れてきた時、後ろから声がした。
「バグ、いつまでそうしているつもり?」
アンナだった。
バグにとって母親のような人。
「もう中に入りなさい」
バグは答えない。頑に口を結んで、空を睨んでいる。
アンナはため息をつき、この頑固な、たった八歳になったばかりの小さな少年を、どうやって連れ戻したものかと、思案した。
不意に、彼は口を開いた。
「ねぇ、アンナ。人は何の為に、生まれて来るの?」
それは、孤児院の子供たちが、皆一度は口にする疑問だった。
「みんな、神様に望まれて生まれて来るの。もう帰りましょう?」
「じゃあどうして簡単に死んじゃうんだ?」
昨日、ティナという、三歳の女の子が死んだ時も、彼は同じことを聞いた。
「神様が望まれたことではないわ。けれどもティナは、きっと天国で幸せに暮らせる筈よ。」
アンナは、その時と同じ言葉を繰り返した。
いつだって、彼女はそうだった。きっと幸せになるとか、神様が見守ってくれてるとか。
アンナの言葉は美しい。
けれど、バグは真実が欲しかった。
大人はいつも、本当の答えを教えてくれない。
「僕は帰らない。僕が怒っていることを、神様に認めさせるまで。」
― Fin.