遠くに「紅華楼」の明かりが見える。
「綺麗よね。あの明かりは消してはいけない」
紅は小走りになって紅華楼に戻った。
妙は紅の姿を見て涙ぐんだ。紅からいきさつを聞きまた涙を流した。
「よかったぁ。本当によかったぁ」
その日の夜、最後の客を送り出し紅と妙、あやめはささやかに宴会を開いた。
次の日、約束通り連二郎がやってきた。
「今日から世話になる。昨日は失礼したな」
部屋をどうしようか考えて離れを思い浮かべた。四年前のあの日から足を踏み入れたことのないあの部屋。その後健吾が使っていたのたがどんな風になっているか一度も見に行った事などなかった。紅は妙を連れて様子を見に行く事にした。
部屋は女中が掃除しているせいか片付いていた。健吾の荷物は衣類と数冊の本くらいの様だ。まあ、昼まで寝て、夕方から賭博場や女を買いに行って明け方帰るか、しばらく帰らない事も珍しくなかったという話だし。駆け落ちに持っていった物もあるだろうし。
ここにきて健吾の事を何一つ知らない自分に自分で驚いた。四年も夫婦だったのに赤の他人の様だ。いや、他人と言うよりむしろ憎んでいたほうが強かった。恐怖、そして何より鶴と間違われて抱かれたと言う屈辱感。もし、あの時鶴の名ではなく私の名を呼んでいてくれたらもう少し変わっていたのかも…。
健吾の荷物は納屋にしまい、連二郎を離れに住まわせた。
連二郎は以外に真面目な男だった。朝は早くから起きて薪割をし、紅の外出には必ずついて歩く。夜は用心棒として店の揉め事を片付ける。
いつの間にか遊女達の人気者にもなり、普段昼間はだらし無い恰好でいる遊女達がそこそこの形で遊郭にいる。
しかし当の本人は知ってか知らずか遊女達とはちゃんと一線置いていた。
連二郎が店に来て半年が過ぎた頃、あやめの年期開けが近づいてきた。
「あやめ姉さん。年期開けの話何だけど、どうする?見受けしても良いという話もあるし、国に帰るならそれもいいし」
ここ最近、あやめが上の空で何人かの客を怒らせた話が紅の耳に入っていた。年期開けの後をを気にしているのだろうかと紅はあやめを帳場に呼んで話をした。
「年期開け? あぁ、もうすぐだっけ…」
少し淋しそうな顔をしてあやめは言った。