ある朝、部屋の机に見覚えのない二つ折りの紙が置いてあった。
訝りながらもその紙を手に取り、開いて中を見てみる。
紙はびっしりと文字で埋まっていて、紙の最上部には『過去の自分へ』と書かれていた。
誰かの悪戯かと憤りをおぼえながら、紙に書かれた文字を目で追っていった。
『過去の自分へ
詳しく説明するには、この紙では伝えきれないから省かせてくれ。
信じられないかもしれないが、とにかく僕は未来の君だ。
これだけは信じてくれ。
じゃあ要点だけ話す。
今日妻と旅行に行く予定だと思うが、その旅行は中止しろ。
もし旅行に行けば旅行先に車が突っ込み、僕は助かるが、妻は死ぬ。
妻を亡くしたくないなら、今日一日でいい。家から出るな』
旅行に行けば妻が死ぬと伝えることが名目のこの紙は、ギリギリまで文字が書かれていた。
それにしてもこの内容は、容易に信じられるものではない。
悪戯と考えるのが妥当だろう。
しかし紙の内容が真実だったら……。
僕は旅行を中止することにした。
妻には、「旅行は来週必ず行くから今日は家でゆっくりしよう」と、仕事の疲れを理由に言いくるめた。
そして何事もなく時間は過ぎ、日は暮れて夜になっていた。
この時僕は二階の部屋で仕事をして、妻は一階のキッチンで料理を作っていた。
まさにこの時だった。