もしあの時、俺が…
そこまで考えかけて、頭を振った。
どうしようも無いこと、というヤツは、確かに世の中にある。むしろ世間にはそればかりだ。
そんな事も認められない程、俺は若くない積もりだった。
だから、女の子が絡まれていたからといって、普段通り、見て見ぬ振りを決め込んだところで、何を言われる筋合いも無い。
“スカー”というあだ名の元になった顔の傷だって、修羅場をくぐりぬけてきた訳ではなく、実家で家畜の世話をしていた時に出来ただけの、マヌケな一生傷に過ぎない。
なのに。
「オイ、コラ、チンピラ。」
なのに何故、因縁をふっかけられねばならないのか。
しかも、
「アタシ助けてっつったよな?」
絡まれていた元・被害者、現・加害者の女に。
彼女は通行人が尽く素通りしていくのを見てとると、周囲に助けを求めるのを止めた。
それを諦めととった、彼女を囲んでいたちょっと弾けたお兄さん×3は、彼女を自分達の遊び場にエスコートしようと、彼女に向けて実に友好的な笑顔を向けた。
彼女もそれに笑顔で答え、状況は平和的に解決したかに見えた。
5秒後、お兄さん×3は打撲による腹痛と突然の抜歯、及びちょっとした顔面整形に苦しみ、固い地面の敷石をベッドに仮入院。
そして+1、俺。
何で?