月がもう、大分傾いていた。朝が近い。
ガルガは眠るのを諦めて身を起こし、水差しを手に取って、青白いグラスに水を注いだ。
独りの夜は、長い。
静寂は、睡眠を助けるどころか、余計な事ばかり考えさせた。
過去も、未来も、今の彼にとっては暗闇の中なのに、何を考える必要があるだろう。
思考の迷路をさ迷っても、光明など見つからず、却って闇が増すばかりだというのに。
家を出た時、計画も何も無かった。
しかしこれ以上、あの森の麓の小さな家で、母と二人きりで暮らす事に堪えられなかった。
母が憎かったのではない。二人だけの生活は、彼には退屈過ぎただけだ。
それは、毎日死ぬようなものだった。
母には打ち明けなかった。恐らくまだ、自分の息子が居なくなったことにすら気付いていないだろう。
それは、酷い裏切りなのかも知れない。
それでも、旅立った。寄る辺無い旅へ。
後悔は無かった。
けれども、これから二人分の朝食を用意する彼女を思うと、胸が軋んだ。
あるいは、先への不安の為に、残してきた者を振り返ってしまうのか。
ガルガはグラスの水を一息に飲み干し、今日からの事を考える。
まずは身の置き場を決め、それから足りない物は買い足さなければならない。
残金を確かめようと、銀貨の入った袋を鞄から取り出し、持ち上げてみると、その下に、見覚えのない袋があった。
開けてみると、銀貨と金貨、そして、小さく折り畳まれた手紙が一通入っていた。
手紙には、一言だけ。
バカ息子。
胸が、熱くなった。