勇者たちが冒険の旅に出てから、初めての夜。立ち寄った町の宿屋を訪れた。
「へい、らっしゃい。宿屋です」
小太りの親父が、威勢よく勇者たちを迎えてくれた。
「4人で1晩泊まりたいんですけど。部屋は空いてますか?」
「空いてる空いてる。うち暇だもん。つぶれそうなくらい暇だもん。4人で15Gね」
「へえ、安いですね。じゃあ、早速これ、宿代の15Gです」
そう言って勇者が宿代を手渡した瞬間、目の前が真っ暗になった。
テレレレー、テッテッテー
そして、どこからともなく妙なメロディーが流れてきたかと思うと、あっという間に夜が明けて、朝になっていた。
「昨夜は、よく眠れたかい? まあ気をつけて行ってらっしゃい」
と、宿屋の親父は爽やかに言ってみせたが、勇者たちは、あっけにとられていた。
「ちょっと、おじさん。僕たち、まだ寝てないんですけど」
戸惑いながら、勇者が文句を言ってみせる。
「え? 寝てないって言われてもねえ…宿屋ってこんなもんだよ。それに、体力、魔法力ともに全回復してるでしょ?」
「うーん…まあ確かに回復してるみたいですけど、眠ってないから、頭がボーッと」
「そんなことを言われても、あたしゃ知りません。とにかく体力や魔法力が回復しているのなら、宿代は返せないよ」
そういって、親父は表情をけわしくする。
「あのう、じゃあすみませんけど、もう1泊させて下さい」
まぶたを重くしながら、勇者が言った。
「え、朝になったばかりなのに、あんたたち、また泊まんの?」
「はあ。恥ずかしながら、お願いします」
勇者は少し腹を立てながら、我慢して言った。
「じゃあ、15Gね」
「はい、これ15G」
テレレレー、テッテッテー
「昨夜は、よく眠れたかい? まあ気をつけて行ってらっしゃい」
3日後、勇者たちは全滅した。