はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…
こんな浅い呼吸で肺に空気が送られているのだろうか?しかし、そんなこと今は、どうでも良かった。ピンと張り詰めた空気から、まるでゼリーの中から空気を吸い出すかのように呼吸することに集中していた。今は、空気が必要だ。理由は、分からない。
薄暗い廊下。どこまでも続いていそうな廊下。僕は、そこに突っ立っていた。光に照らされて見えるものと言えば、割れた小さな窓が付いた扉の列と床の砂埃。ちょうど、病院の廃墟に似ている。廊下に弱々しく降り注ぐ光は、高い小窓から漏れた月明かりだろうか?いや、そうだろう。太陽ならもっと強い光のはずだ。
どうして僕は、ここにいるのだろうか?
来た方法も目的も分からない。そもそも、決して自分の意志でこんな不気味な所に来ようなどと思わない。
ず、ずずっ、ずずっ…
布を擦る音が、背後から聞こえる。ゆっくりとだが、確実に近づいて来る布の音に恐怖心が湧き上がる。
僕は、これから逃げなくてはいけない!!
心臓が早鐘を、本能が警鐘を打ち鳴らす。分かっている。急いで逃げなくてはならないことは分かっている。けれど、体が動かないのだ。まるで、髄に鉄を流し込んでしまったかのようにビクともしない。
ずずっ…ずずっ…
早く前へ!前へ逃げなくては!!
首筋に妖しい空気が触れる。ひんやりとした冷たい空気。その瞬間、体がビクッと一度震え自由が戻った。
今の内に!!
腰を落とし、右足を前に出す。そして、思い切り体重を右足にかけて踏み出した。
ヒタッ
振りかぶった右腕に何かが触れた。冷たい何かが…。