ワシントン。
一台の大型トラックが西側ゲートの前で速度を落とした。
「よし、止まれ」
ゲートの警備兵が小銃を構えて停止を促す。
「輸送物資か。一応、許可証を見せて」
黒塗りのウィンドウを軽くノックし、警備兵が親しげに尋ねる。
ううう……と機械音を上げてウィンドウが開く。
「オイ、黒塗りはやめた方がいいぞ相棒…」
ビュッ!
風を切るような短い音が小さく響く。
直後、警備兵の身体がピンと硬直し、そのまま真後ろに大の字に倒れた。
「なっ!?」
周りの警備兵は迅速に反応したが、小銃を構え直す前に、布で覆われたトラックの荷台から弾丸の雨が飛び出し、その場にいた十人の警備兵を皆殺しにした。
「素早く正確に行動しろ。標的はあくまで小娘一人だ殺すなよ。他は構うな」
基地の危機管理能力の低さに呆れながらも、ハーケン・クロイツは指示を出す。
トラックの荷台から三十人の特殊強襲部隊が次々と降り、音もなく巡洋艦【アオカゼ】を目指す。
どこかでビッと音がして、声を上げる間もなく誰かが倒れた気配がした。
「出来るだけ殺生はするなと言ったのに」
クロイツはやれやれと首を振ると、自らも小銃を構えると走りだした。
「……?」
グラスにワインを注ごうとしていた手を止め、狩野は振り返った。
「どうしたの?」
ベッドに寝そべっている滝川が上半身を起こして不思議そうに狩野の背中を見つめた。
「……」
狩野は口に指を当て、静かにするよう促し、拳銃を手に取った。
「ハ、ハル?コーヒー飲みたくない?」
「コーヒー?」
ハルの部屋を訪れたアキの第一声はコーヒーだった。
「コーヒーか。苦手なんだよね、苦くて」
以前、父親が飲んでいたものを飲んだ事があったが、吐き出してしまったのを覚えている。
以来、口にしていない。
「え」
アキは目が点になっていた。
「おかしいな。イチコロじゃなかったの…?美樹ちゃん」
なるほど、また美樹に何かを吹き込まれたらしい。
ことに恋愛、性的な知識に関しての造詣が深い美樹は余計な事をアキに吹き込んで喜んでいる。
そういう知識に疎すぎるアキもアキだが、何度冷や汗をかいたかわからない。
「アキ、何を美樹に…」
「待って!」
突然鋭い声で制されたハルは息を飲んだ。
「何か、来るよ」