次の朝、伶は頭痛と共に目が覚めた。
中毒の後遺症なのだろう。
『なおはもう仕事かぁ‥』
携帯の時計を見て伶はつまらなさそうに言った。
薬のせいか頭痛が治まってくると必ず眠気が来る。
今の伶にはちょうどいい。眠ってる間は何も考えずに済むから。
だからあの日も、あの日も‥
二度と目覚めたくなかったから、伶は‘そう’した。
バカだと、愚かだと、人は思うのかもね。
だったら、記憶を消す薬とか何か発明してもらいたい。
なおに独占的に愛されてたという記憶を。
『それなら、』
と伶も了解すると思う。
なおと伶は夫婦だった。
正式には、まだ用紙を提出してないのでまだ紙の上では夫婦。
なんの効力も持たない。
一度目、伶が‘そう’したのは、ほぼ衝動的だった。長年愛してきたなおだから、彼女がただの浮気じゃなく本気だって事が手に取るようにわかってしまったから。
眠剤を飲み手首を剃刀で‥なおが帰宅した時には、傷は浅く血は止まり、眠剤は量が少なく、揺さぶられたら目を覚ましてしまった。
「何してんのぉ」
なおはそう言いながらあたしのおでこを携帯で小突き、丸まり込んだあたしを抱きしめて寝かしつけてくれた。