「工作兵…やられました」
足元に転がった黒衣の男の顔を蹴って狩野は舌打ちした。
成る程、隙の無い見事な制圧だが、個々の能力はそれほどでもない。
実際、右手左足を骨折している自分でさえ、三人を相手にするのは楽だった。
「お怪我は?」
滝川を振り向くと、滝川は化け物でも見たかのような顔でこちらを見ていた。
「凄いわね」
それほど本気を出した訳ではなかったが…
「恵美、いや、艦長。第二戦闘配備を。あおかぜは強固です。すぐさま全域を制圧される事はありえません」
制服をてきぱきと着て、狩野は滝川に促す。
「わかってる」
滝川は艦内放送のマイクを掴み、怒鳴った。
「第二戦闘配備!繰り返す。総員、第二戦闘配備!あおかぜ艦内に敵勢力が侵入。白兵戦の用意!これは演習に非ず!繰り……」
(繰り返す。総員、第二戦闘配備……)
すぐ目の前のスピーカーから大音量の緊急放送が入る。
「思ったより早く気付いたな…」
ハーケン・クロイツは鼻で笑った。
いくら出てこようが関係無い。
もともと、この艦を落とすつもりなど毛頭無い。
標的は『娘』ただ一人なのだから。
アメリカ軍の援軍も、こちらの【後詰め】の部隊が抑える手筈になっている。
ハーケンは物陰から飛び出してきたアオカゼのクルーを撃ち殺し、身近のドアを開けた。
<少佐!帰ってきたら、なんかご褒美くれるんだよね!?>
<桜花(ロウファ)、うるさいぞ>
<何よユアン!ユアンだって期待してるくせに>
<っ!?俺は!>
「やめろってお前ら」
コクピットの画面の端で激しく口論する二人の【能力者】、
ユアン・イルスキー
李桜花(リ・ロウファ)
の二人の間に割って入り、二ノ宮吟次はため息を洩らした。
「ご褒美って歳でもないでしょうが。旧友に会えるんだぞ」
<うふふ…アキね。ユアンは楽しみよね〜。アキの事好きだったもん>
<違っ!>
「頑張れユアン」
<少佐…>
笑いながら、二ノ宮は時計を確認した。
頃合いだ。と小さく呟き、二ノ宮は談笑する二人の邪魔をする。
「作戦は手筈通りにやれ、ユアンは上空のアレクサンドルを引き付けろ、ロウファは俺と来い」
三人は同時にWWを起動させた。
日本製【第三世代・蟒丸(ウワバミマル)】
ロシア製【第八世代・ブラーチャ】
中国製【第四世代・天童】