ブランクコア。FMJ弾の先端部分に空洞を設け、殺傷能力を上げたもの。着弾と同時に弾丸が潰れ、回転しながら進むことで神経や血管を大きく傷付ける。更に弾丸の貫通力が下がり盲管銃創(体内に弾が残る)となって前線での治療を困難にする、軍隊でも使われることがある対人体用の弾丸だ。
それを使われた。平和な日本の、こんな辺境で。
全く、いつから日本はこんなに物騒になったのやら。楽しいじゃないか。
でも。
海潮の服を捲くり上げ、傷口を確認する。脇腹の端が刔り取られ肉と脂肪が露出していた。零れ落ちる血の勢いは激しく、放って置けば出血多量で死に至るだろう。救いは弾丸が貫通してしまっていることか。恐らくは本当に掠めただけ、なのだろう。運の良い奴め。
「ちょっと染みるよ」
「おう……ってえ!?」
腰に提げていたポーチから緊急医療キットを取り出し、海潮の傷に応急処置を行う。縫合なんて出来ないから消毒してガーゼとかあてるだけだけど。新品の真っ白な包帯を巻いて絞め、けれど滲み出す赤色に汚される。……結構、酷いな。
「酷いのは……てめぇだっ……! 容赦無く消毒液ぶっかけやがって……!!」
「あー、ごみん」
「心が篭ってないな畜生……! くそ、もう行っちまえ!」
「言われなくても」
手にしたこちら側唯一の武器……鉈をしっかりと握り締め、地を蹴って走り出した。耳元を銃声が抜ける。飛び込むように木の影に隠れ、銃弾をやり過ごしてから飛び出す。再度の銃声。近い。先程よりずっと。狙いが付けられているのだ。
マズイ、と思ったのは三つ程銃声をやり過ごした時。遠く、荒かった狙いが徐々に近付き、あと数発で当たると思われる位置まで来ていたのだ。舌打ちを一つ零し、一際大きな木の影に隠れる。銃声が木の幹を刔り、足元を穿った。冷や汗が額を伝い、顎から地面に落ちる。
「……っは」
……マズイ。マズイマズイマズイマズイ。狙撃者が居る位置まであと少し。なのに、もう数発の猶予も無い。よくて、三発。それ以上狙われれば確実に当てられる。
手を、打たなければ。このままじゃ確実に死ぬ。視界を巡らせ、そして。
「…………っ」
見付けた。起死回生の手段。一度だけ銃弾を回避できる。問題はせっかく詰めた距離を再び開かなければいけないことと、起動力が落ちること、か。でも。
やるっきゃない。