アキが妙な気配に気付いた直後の【第二戦闘配備発令】。ただならぬ事態に陥っている事を認識したハルは腰の拳銃を引き抜いた。
「隠れて」
アキをクローゼットに押し込めようとした時だった。
部屋のドアが勢い良く開け放たれ、黒いコートを来た金髪の男が現れた。
「……見つけたぞ」
男はそう呟くと、アキに拳銃を向けた。
「アキ・シラユキ。私と一緒に来てもらおう」
今度は拳銃をハルに向け、ハルを鋭い目で睨み付けた。
「小僧、死にたくなければ失せろ」
銃口は真っ直ぐにハルの眉間を捉えていた。
ハルは背中からどっと冷や汗が吹き出すのを感じた。
「止めて!!」
アキがハルに駆け寄り、両手を上げてハルの前に立つ。
「一緒に行くよ。一緒に行くから、ハルには何もしないで!」
震えていたが、凛とした声だった。
「アキ!」
ハルは驚いてアキの肩を掴んだ。
パン
乾いた銃声が部屋に響き、置いてあった花瓶を吹き飛ばす。
「黙っていろ」
気が付くと、額にもじっとりと脂汗をかいている。
足がガタガタと音を上げて震えていた。
「ありがとう、大丈夫」
肩に置かれたままのハルの右手に頬擦りし、自分の右手をそっと添えてハルの手を離そうとした。
柔かい指の腹が汗まみれの手の甲に触れる。
すると、ボタンを押されたかの様に握力が緩んでしまった。
アキは半分だけこちらを振り返ると、淋しそうに優しい、だが引きつった笑顔を見せた。
ハルは己を呪った。
放して欲しいはずがない。
捨てて欲しいはずがない。
あの日、雪降る大晦日。自分を助けてくれたアキ。
あの日は放してしまった。
ビルの瓦礫の下。アキ曰く、二人は二日間、同じ瓦礫の中にいたという。
気を失っていた見ず知らずの自分を、アキはずっと見守っていてくれたのだ。
何やってんだ。俺は。
笑顔が引きつってしまったのはわかっている。
でも、精一杯笑ったつもりだ。
ハルの手、汗が滲んでいた。
肩に置かれた右手から力が抜けた時はさすがに絶望が全身を吹き抜けたが、最初の一歩を踏み出すのは案外簡単そうだった。
皮肉な笑いを浮かべる男の銃口目がけてアキは一歩目を踏み出そうとして、
右肩にかかった力に引き戻された。
爪が食い込む。だが、痛くはなかった。
「アキは渡さない」
震えていたが、力強い声だった。