「ちょっと外行ってきていい?」
「何しに…」二番目の姉が侮蔑するような表情でこたえた。
みんなが口々に何しに行くのとか、もう暗いから危ないからとさまざまなことを言ってきた。もちろん心配してのことだというのは子供のおれでも十分わかっていた。それとみんなのリアクションをみてはっきりしたことがあった。みんなにはこの音は聞こえていない。そのことは昨日の夜にも確認済みではあったし、うっすらわかっていたのだが、このとき改めて確信したのだ。だからおれだけがこの音の出どころを探すことができる。そして音は確実に外から聞こえていた。もうその時のおれは自分でもなぜこんなに興奮してるのか、こんなにも気になっているのか、説明しきれない状態だった。他の人には聞こえない音…。少し不気味で、それでいて流麗なメロディー…。今になっておもうに、もうこの時既におれはブルースの虜になりかけていたのかもしれない。
「じゃあお父さんと一緒にね」と母が言った。
「ちょっとだけだからひとりで大丈夫」と間髪入れずぼくは言ってはみたが、案の定、みんなから一斉に反対された。
それでも粘りに粘って、どうにかこうにか条件つきでひとり外に出られることになった。家の近くから離れず、目につくところまでという条件で、ぼくは外に出た。夏の夜の生温い空気がぼくを迎えてくれた。