背側の大きな幹に身を隠しながら、“それ”の元に近付いた。慎重に、木の影から身を出さないようにして“それ”を背負う。重い。そして臭い。当たり前だが、起動力が大幅に削られ、先程までの様に自由には動き回れなくなる。けど、これしか方法は無いんだ。
銃声がこだまし、大きな幹が削られた。……よし。向こうにこちらの動きは悟られていない。これならいける。
慎重に歩を進め、身を隠している大木の前で立ち止まる。深呼吸を、一つ。
それで覚悟が決まった。
一度横に大きく腕を振ってから、僕は大木の影から飛び出した。後ろに流れる風景の中、僕の反対側から飛び出した血まみれのシャツが撃ち抜かれたのが見える。単純なフェイント。有り難いことに、引っ掛かってくれた。その隙を突いて一気に接近する。
銃撃の間隔から予想される、相手の使用するライフルはボルトアクションかそれに類する種類の物。セミオートでは射撃できなず、発射の度に一々排莢と装填を手動で行わなければならない為、発射後の隙が大きい。つまり、仕留め損なえば損なう程こちらに有利が働くことになる。それに、弾薬の問題もある。先程のフェイントはそのための布石だ。捨て石に等しかったけど、上手く拾われて役にたってくれた。
銃声。耳元を抜ける。酷使した全身に苦痛が駆け巡り、酸素不足で視界が揺らぐ。だけどそこであえて踏み込む足に力を込め、加速した。此処で気を抜いたら、死ぬ。その確証がある。
だから。
今までで掴んだ銃撃のタイミング。定まってくる狙い。ブランクコア。盲管銃創。死地。背負う“それ”。そこから見出だした、活路。銃弾が髪を散らし、そして。
僕は背負っていた“それ”――男性の死体を、背負い投げの要領で投げ飛ばした。直後に銃声。狙い済まされ、僕の命を奪うはずだった弾丸は、死体に吸い込まれ、皮膚を突き破り肉を穿ち骨を砕いて、止まった。衝撃に舞う死体の下を潜り、軽くなった身体を一気に飛ばす。速い。少しの間しか背負っていなかった筈の死体の重さから開放された身体は、驚く程滑らかに山中を駆け抜ける。いける。このまま次の銃撃までに、距離を詰める!
視界に自然色以外の色が見えた。肌色。ついに、狙撃主を視界に捉えたのだ。しかし。
「!」
銃口が既にこちらを向いている。決死。死が、目前に――――――