二人の間に子供ができたことも、再び二人の絆を、硬くすることにはならなかった。
それどころか、哲也の理子に対する態度は、ますます冷たいものになっていった。
彼のプロポーズの言葉も、うやむやになったまま、季節は移り、クリスマス・イブも近いある日、理子は、部屋で、一人ツリーの飾り付けをしていた。
赤、青、緑……様々な色彩の洪水に囲まれ、毎年なら、喜びにウキウキと心がはずむ日なのに、その年は「何か、食事をとらなくちゃ…
今朝から、ほとんど食事らしいものをとっていないわ。
お腹の子供のためにも、なにか栄養のあるものを食べなければ…」
最近、理子は、めっきり食欲もなく、妊娠中だというのに、体重は、むしろ以前よりも減っていた。
簡単な食事を用意して、スプーンを手にした理子は、ある異様な光景を目にして、驚愕する。
すべての食器が、彼女に向かって、飛んでくるように見えるのだ。
慌てて、部屋を見渡すと、壁に掛けた絵も、時計も、置物も… 部屋中のすべての物が、彼女に向かって襲いかかってくるようだ。
「私は、気が狂ってしまったの?!
哲也…哲也…
助けて!」