「何のつもりだ。小僧、銃が見えないのか」
皮肉な笑いを浮かべていた男から笑顔が消え、ブルーの目がすっと細められる。
「アキは渡さないって言ってんだ」
ほう。と感心したように唸った男は銃の撃鉄を引く。ガチャと固い金属音がハルの鼓膜を叩いた。
震えはもう止まっている。男はかなりの手練だが、躊躇いがあるのか、はたまたアキに当たるのを恐れてか、威嚇射撃ばかりで撃ってくる様子がない。
賭けるしかない。
ハルはアキをベッドに突き飛ばすと、自慢の跳躍で男に向かって突進した。
背後でアキがベッドに倒れこんで小さく悲鳴を上げたが、ハルは心の中で『ゴメン』を連呼しながら男に組み付いた。
男は小さく舌打ちをしたが、慌てなかった。
銃で腹部にくっついているハルの頭を殴り付けたのだった。
一瞬、視界がグラリと歪んだが、ハルは気力で男を放さなかった。
「阿呆め…」
頭上で、男がもう一度銃を振り上げたのがわかった。
ハルは次の瞬間には脳天を襲うであろう激痛に備えたが、それよりも、銃声が響くのが先だった。
「ぐっ……!?」
男が小さく呻いて前のめりになる。
弾丸は男の右肩を撃ち抜いていた。
「ハル!伏せろ!」
「大介!?」
あおかぜに乗艦して以来の親友、野口大介が大きな体躯を震わせて喚く。
言われるままに伏せた頭上をもう一度野口の弾丸が掠める。
「卯月!無事か!?」
野口と共に部屋に飛び込んで来たのは狩野だった。
骨折が完治していないはずの右足を引き摺る素振りも見せずに男に踊りかかる。
男も負けじと応戦し、部屋の中で取っ組み合いが始まった。
「卯月、白雪を連れて逃げろ。ブリッジまで走れ、防衛線が引いてある!」
「は、はい!」
言われるままにハルはベッドの陰に隠れていたアキの手を引き、出口まで走った。
「ッ!待て!」
さすがに焦りを見せた男は拳銃を構えたが、狩野の鋭い手刀で叩き落とされてしまった。
逃げ切れる
そう確信した刹那。
爆音と共に廊下を挟んだ向こう側の部屋が爆発した。
部屋の外で早く来いと手招きしていた野口は爆風に吹っ飛ばされ、姿が見えなくなってしまった。
激しく舞い上がるホコリ。
その向こうに、ハルは輝く光球を見た。
それがWWのカメラアイだと気付いたのはホコリが収まり、その黒い輪郭がはっきりしてからだった。