三階のどこか、と言っても大体想像がつく場所から響いてくる銃声を無視し、俺はある思索に耽っていた。
やけにゴテゴテと飾り立てられた扉。
恐らく、このイカレ趣味な建物の中で、一番財力を注がれた部屋なのだろう。
この扉を見た瞬間、俺の探しものはこの中だ、と予感した。
が、そういう勘は得てして外れるものだから、俺はその右の扉をそっと開けた。
「…せ、先輩、止めてくだ…っ…やっ…あっあっ……」
「嫌がっても無駄だよ…フフ、躰は正直だね」
「…だ、ダメです、…仕事中に、こんなっ…!…っあ!」
「そういうの、好きなクセに」
「やっ!ソコはダメ…っ!」
… … …
パタン。
やけにゴテゴテと(以下省略)
警備員ニャンニャンの記憶を消去し、俺は素直に目の前のケバケバしい扉を開けることにする。
他の扉とは鍵の種類が違うらしく、鍵開けに少々手間取った。
が、それもほんのわずかな間の事だ。
隣の警備員達が終わって出て来た時には、俺はもう既に扉の中にいた。
そしてその扉の中で、俺は探していた『過去』を見つけた。
「……チェルシー」
俺は、その人の名を呼んだ。
深夜にも関わらず、非常ベルの音で目を覚ましていた彼女は、その涼しげな眼差しを俺に向ける。
「あら、どうしたの?警備員サン」
と、意味深な笑みをうかべた。
俺がガチャガチャやってたのに気づいただろうに、全く触れない所が素敵だ。
ついでに、中から開けてくれない所も。
「ここには怪しい人なんて居ないわよ、アナタ以外は、ね」
彼女は色っぽく煙草をくわえ、火をつけた。たった一年で、随分娼婦の様なことが板についている。
「何しに来たの?まさか、私を助けに?」
そうからかう様に言って笑う。
女奴隷として、好きでもない男に抱かれる女の悲痛さは、そこには無い。
俺には、それが寧ろ痛々しかった。
彼女は元々、たった一人を愛して、金も権力も無いソイツと結婚し、それでも人に羨まれる様な人妻だった。
俺は無理矢理に口の端をつり上げた。
湿っぽくなるのは御免だ。
「まさか。借りを返しに来たのさ」