そんな紅の独り言を連二郎は耳にした。
「なに、らしくなく考えてんだよ。ここは遊郭だしお前は主人。遊女はお前に買われて働いている。お前が買わなきゃ他の遊郭が買うだけだし。借金の形に売られてくる女は山ほどいる。それが現実だ。だから、せめてお前は今までの様に女達を人間として扱ってやれ。そうすれば心は少しでも救われる」
「らしくないか…。そうだよね。
「お前は面白い女だな。今にも折れそうなか弱い華の様で実はしなやかに蔓を張り伸びていく。暗闇に白く咲く華の様だ」
不意に紅は連二郎との夜を思い出しドキドキと胸の鼓動が速くなるのを感じた。
紅はまじまじと連二郎を見た。店の遊女達が騒ぐだけあり見た目はかなりの男前で体つきも鍛えられている。
紅にじっと見られているのに連二郎は気がつき
「なんだ?抱かれたいのか?抱いてやってもいいぜ。お前が頼むならな」
と少し意地悪く笑った。
「まさか。連二郎はどうして吉原にいるのかと思っただけよ。だいたい私はまだ…」
と言いかけて行方知れずの健吾の事もこのままではいけないと考えた。
離縁してお互い好きな様に生きていく道もある。その為にも一度会う必要があるのだが半年立っても未だどこにいるのか噂話も入らない。
「俺が吉原にいる理由なんてないさ。俺はここで産まれたんだから」
帳場に入って腰を下ろしたので紅は連二郎にお茶を入れる。
俺の母親は遊女で誰とも知らない男の子供を身篭った。今でも妊娠すればモグリの医者に診せて堕胎させてんだ。当時は腹蹴る、殴るは当たり前。俺の母親は案外と腹も出なかった事もあり一人でこっそり俺を産んだ。産んだところで見つかっちまって俺はすぐに養子にだされた。
養子先では女郎の子と虐められ腕っ節を磨いていくうちに流れ流れて吉原に来て山柴の親父に拾われたんだ。
「吉原にに来たのは母親になんで産んだか聞きたくてさ。堕胎くれればよかったのにって。探した母親は夜鷹小屋に堕ちて俺が会いにいった時は精神も病んでた。俺が息子だと名乗っても俺に抱かれたがった。吐き気がして俺は逃げた。それから風の噂で死んだって聞いた。結局、何で俺を産んだのかは聞けずじまいさ」
そういい、連二郎は紅の入れたお茶を飲み、立ち上がった。