曇っているせいか、月は見えない。向こうには街の灯りが点々と見えるのみ。
リリィがみんなの方を向いて挨拶しようとした時だ。目の前にひとつ影が立ちはだかった。
マーチだった。マーチはリリィをわざと無視して酒場の中に入って行った。
喉に何か詰まっているように苦しい。皆の方に目を向けた。
「今までいろいろとありがとう」
客達の視線は寡黙なマーチからリリィの方に再び移る。リリィはマーチが視界に入るのを避けたかった。
「さよなら」
そう言って足早に酒場を立ち去る。
「リリィ?」
ココはリリィに声を掛けたが遅かった。真っ暗な闇に消えてしまっていた。
空が唸る。
じきに激しい雨が降ってきた。
心配そうに立ち尽くす人々の後ろでマーチだけは知らん顔。
ラジオから流れる。
明日、カナイ市長がメライ地区を訪問するだとか…
いや、訪問なんて生易しいものではない。警察官も引き連れて大捜索といったところだ。
「どうするつもりだよ王子様」
ヒオは溜め息をついて呟いた。